「黒字決算」のための財務戦略――システム事例
建設業用会計情報データベース(DAIC2)ユーザー |
■村野建設株式会社 |
部門別・現場別管理の徹底で目標利益を着実にクリア |
東京・あきる野市の村野建設は、創業80年の老舗工務店だ。「人と自然に優しい循環型住宅の提供」を理念に、自然素材を用いた注文住宅や増改築で地域シェアトップを誇る。この堅実経営を支えているのがTKCの『DAIC2』。同社の村野栄一社長と顧問税理士の岡野哲史氏にその活用法を聞いた。 |
■「人と自然に優しい」住宅で地域ブランド構築に取り組む
――昭和元年創業の老舗工務店だと聞いています。
村野 今年で創業80周年になります。初代の頃は神社や学校、役場の建築などを手掛けていたそうです。
私は3代目で平成11年に社長に就任しました。現在の事業内容は注文住宅の新築、増改築、介護改築の3つで、売上構成比では新築7割、増改築2割、介護改築1割です。介護改築というのは、手すりやスロープの設置といったバリアフリー化のためのリフォームなどです。
――セールスポイントは何ですか。
村野 当社の理念は「人と自然に優しい循環型住宅の提供」ですが、例えば新築なら無垢材の壁や『ウールブレス』という羊毛を使った断熱材など自然素材の建材を用いています。これが当社の特徴ですね。
――新築の坪単価は?
村野 現在は55万円程度です。この坪単価でもある程度価格競争力はあるのですが、さらに50万円にまで下げるため、いま社内プロジェクトを立ち上げて原価の削減に取り組んでいるところです。自然素材の住宅は一般的に高いと言われていますが、それをお客様が適正と感じる価格で提供することを目指しています。
――建材が自然素材だとやはり違いがあるんですか。
村野 かなり違います。自然素材のほうがシックハウスや住環境アレルギーを抑えることができるし、湿度も10%は低いため夏の蒸し暑さもあまり感じません。リサイクルやリユースもできて環境にも優しい。
――まさに「人と自然に優しい」ですね。年間何棟手掛けるのでしょう。
村野 当社は方針として地域密着を掲げていて、だいたい半径20キロ圏が営業エリアです。この商圏で毎年6、7棟を手掛けています。
いまの当社にとっては、地域内でのブランド力向上が最大の鍵だと考えているんです。そこで私の代になってから、過去25年間に家を建てていただいた約200軒のお客様を毎年定期訪問するようにしました。住宅は建てた後にも補修があったりします。そうした要望にきちんと応えて末永く満足していただくことを心掛けています。顧客満足度が高まれば、狭い商圏だけに良い評判が口コミで広まります。実際、新築のほとんどが以前に建てていただいたお客様からの紹介で受注できています。
それと定期訪問は、増改築や介護改築の営業活動にもなります。200軒近くもあると改築などを毎年一定件数受注できるんです。
――高齢化が進んでいますから、介護改築は今後有望といえるのでは?
村野 これまでかなり力を入れてきました。改築だけでなく、4年前には『バレンタくん』という高齢者や障害を持つ方のためのバリアフリー賃貸住宅のシステムも構築し、東京都から中小企業経営革新支援法(現・新事業活動促進法)の承認も受けました。お陰様で順調に受注が取れ、市内の売上シェアもトップの2割を獲得するまでになっています。
ただ、今期からは少し軌道修正しています。というのも、確かにニーズはあるんですが、介護改築は忙しい割に利益率が低いということがわかったからです。これは『DAIC2』で3事業部門ごとの業績管理を行ったことで気づいたことでした。
■『DAIC2』の導入で現場監督の責任感が向上
――『DAIC2』は岡野会計の指導で、平成13年5月に導入したそうですね。
岡野 村野建設さんに対しては、大きく分けて3つのステップで経営助言を行ってきました。
まず『DAIC2』を導入していただき、現場ごとの原価管理が行える体制を整えてもらいました。次に『継続MAS』による年度経営計画の策定支援を行い、そして前期に部門別業績管理体制への移行準備をし、今期からこれを実施しています。
村野 岡野会計さんの関与を受ける前から市販の積算ソフトで実行予算(見積)の作成まではできていました。ただ、実行予算があってもその消化額の管理が上手く行えていなかったのです。それが『DAIC2』を導入したことで、月次で原価管理ができるようになりました。
――それによる効果は?
村野 一つは見積精度が高まったこと。積算ソフトを活用しコンピュータで予算を作成していたといっても、基礎は現場監督それぞれの経験値でした。そのため現場監督によって予算がバラバラだったり、中には甘い予算もあった。いまは個人の経験値ではなく、それが数字として蓄積され標準化されてきています。
それと自分が起こした実行予算を自分で毎月管理していくので、自然と現場監督の責任感も高まりました。いまは消化額が予算額を超えそうならすぐに業者と価格の折衝をするといったことができています。現場監督に「目標粗利益を着実に達成する」という自覚が芽生えてきました。
――消化額が予算額を超えるのはどういったケースがあるのですか。
村野 一例を挙げると、水道やガス、電気といった外注業者への支払いです。実行予算を組むとき外注の支払いはだいたい以前と同じ額で見積もるのですが、それが何らかの事情で実際額が見積額より高いといったことがままありますね。
岡野そうした場合でも、『DAIC2』の《現場別工事台帳》でチェックしていればすぐに外注先に確認できるというわけです。
――工期はどれくらいなんでしょう。
村野 だいたい4ヵ月ほどです。そんなに早いほうじゃないと思います。高品質住宅を提供しているのですから、ある程度工期が長くなるのは仕方がない。当社でお願いしている請負大工さんは先代からお付き合いさせていただいている方がほとんどで、職人気質で腕が良く仕事が丁寧なんです。品質は妥協できませんから…。
ただ、いくらでも原価をかけられるわけではありませんから、品質と原価の適正バランスは大事です。これが現場監督の手腕になります。『DAIC2』を導入して現場ごとにリアルタイムで原価管理が行えるようになったことで、だいぶ現場監督が鍛えられてきたと思います。
岡野 『DAIC2』では《工事利益管理表》という帳表で担当者ごとの予算消費率や粗利益率が一覧確認できます。これが現場監督のモチベーションになっているようです。
――今期から部門別業績管理を行い、先ほどこれがきっかけとなって事業展開の軌道修正を行ったと言っていましたが…
岡野 村野建設さんでは、部門別業績管理を行う以前から手計算で各部門の粗利率を出しており、介護改築部門の粗利はちゃんと出ていました。ところが固定費按分を行い部門別に業績を出してみたら、介護改築部門の経常利益がほかの部門よりずっと少ないことがわかったのです。
それまで期待の星だと思っていたのが、実は会社の利益率を下げる要因だったのです。
村野 岡野会計さんに指摘されるまで、介護改築部門の固定費が過剰だったとは思いもしませんでした。でもよくよく考えたら、手すり1本付けるだけでも現場調査をし図面を引き、施工するといったように凄く手間がかかっていた。社員は忙しく働いているけど、それが利益につながっていなかったのです。この事実が判明したあと、社員3人体制だったのをすぐに2人体制へと変えました。介護改築部門はまだまだ改善する余地があると感じています。
――部門別業績管理によって適切な意思決定ができたわけですね。
村野そういうことです。それと毎月社員を集め業績会議を開いているのですが、部門業績という結果を示した上で社員に指示を出すのと示さずに出すのとでは、社員の受けとめ方が全然違います。厳しい部門の社員ほど真剣にならざるを得ない環境ができてきています。
■「BSC経営」実践し年商10億円を目指す
――部門別業績管理で原因を把握できたら、それを改善するための施策が必要になります。
村野 部門ごとの収益構造の違いがわかってきたので、これを踏まえた上での戦略や組織の再構築が必要だと感じています。そのためにいま、岡野先生が主催する『バランススコアカード(BSC)経営』の勉強会に参加させていただいています。
岡野 毎月1回関与先企業の社長や幹部社員の方向けの『経営実践塾』という勉強会を開催しています。これに村野社長にも参加いただいています。
BSCというのは「財務」「顧客」「業務プロセス」「人材と変革」の4つの視点で事業の全体最適を図るという手法で、村野建設さんは来期からの導入を目指し、いまその準備作業を行っている最中です。
村野 特に人材の育成が重要だと感じています。幹部を育て、最終的には私がいなくても会社が回っていくようにしたいと考えています。いまは毎週1回社内勉強会を開いていて、これには請負大工さんも参加しています。まだまだ試行錯誤の段階ですけどね(笑)
――最後に今後の展望をお聞かせください。
村野 当面の目標は年商10億円です。10億円規模になれば人材の確保でも有利になるし、組織体としての土台ができる。これを何とかやりきりたいと考えています。
(本誌・千葉博文)
会社概要
名 称 | ● | 村野建設株式会社 |
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業 種 | ● | 建築工事業 |
社 長 | ● | 村野栄一 |
設 立 | ● | 1972(昭和47)年5月 |
本 社 | ● | 東京都あきる野市二宮2389-4 |
TEL | ● | 042-558-1138 |
売上高 | ● | 約2億円 |
社員数 | ● | 10人 |
URL | ● | http://www.murano-kensetsu.co.jp/ |
顧問税理士 | ● | 岡野哲史 |